不動産投資を始めるとすぐに目につくのが利回りです。
「高利回りの投資は成功で、低利回りの投資の失敗」と単純に考えていませんか?
実は利回りだけでは投資の成否は判断できません。
そこで本記事では、利回りとその欠点、そしてそれを補うIRRという概念をわかりやすくご紹介します。
不動産投資の利回りとは
不動産投資で使われる利回りにはいくつか種類があり、代表的なものは以下の通りです。
表面利回り(グロス利回り)
表面利回り(%)=年間家賃収入÷物件価格×100
表面利回りは、投資物件購入サイトや販売図面に表示される利回りのことです。
あくまでもこれは満室を想定し、かつ必要な経費が一切含まれていないものになります。
実質利回り(ネット利回り)
実質利回り(%)=(年間家賃収入-年間支出)÷(物件価格+購入時諸経費)×100
実質利回りは、物件購入時にかかる諸経費やランニングコストを考慮した利回りになります。
年間家賃収入を満室で見るのか、一部空室を考慮するのか等で利回りの数字は大きく変動します。
激安ボロ物件を購入する場合などは、この購入時諸経費にリフォーム代も考慮する必要があります。
自己資金投資利回り
自己資金投資利回り(%)=〔年間家賃収入-(年間支出+年間返済金額)〕÷投資自己資金×100
自己資金投資利回は投資した自己資金に対する実質利回りを評価しています。
不動産投資で爆発的にお金を増やすことができるのはレバレッジをかけることができるからです。
表面利回りや実質利回りが低い物件でも、自己資金を全く出さずに購入できると(上記式で投資自己資金をゼロ)にすると、自己資金投資利回りは無限大になります。
つまり、不動産投資ではこの自己資金投資利回りを意識する必要があります。
利回りの欠点とは
今までに紹介した利回りとはある時点の収入や支出で評価したものですが、下記のような要素が抜けています。
利回りの欠点① 売却による損益を考慮していない
どんなに高利回り物件を買ったとしても、投資の出口「売却時」に大損をしてしまったら、それは本当に成功といえるのでしょうか?
長期的に保有し続けることで、投資資本を回収すれば損はしない状態となりますが、購入価格よりも大幅に低い金額で売却すると、投資全体の利回りとしてはどうなるのでしょうか?
これは、問題を単純化し、投資期間全体での収支を計算して利回りとすれば計算できますが、下記③の割引率を考慮していないという問題があります。
利回りの欠点② 毎年の収支を含めた評価が困難
家賃の下落や空室、大規模修繕など、不動産投資の収支は毎年変動します。
ある年度の実利回りは+10%でも、ある年度では△10%となることもあり、そうなったらどうやって評価をすればよいのでしょうか。
こちらも先ほどと同様に、投資期間全体での収支を計算すれば仮想的な利回りは出ますが、やはりそれでは割引率という問題があります。
利回りの欠点③ お金の時間価値(割引率)を考慮していない
割引率とは、将来の価値を現在の価値に直すために用いる率のことをいい、将来もらうお金よりも先にもらったお金の方が価値が高くなることを定量的に評価する方法です。
なぜ先にもらったお金の方が価値が高いのでしょうか?
例えば、今すぐに100万円もらうのと、来年100万円もらうのでは、同じ価値があるのでしょうか?
難しい話に聞こえるかもしれませんが、話は単純です。
先にお金を手にすればそれを元手に投資して増やせますが、その利回りが10%だとすると、1年後の100万円の価値は110万円(=100万円×1.1)です。
この逆を行い、1年後の100万円の現在価値は、90.9万円(=100万円÷1.1)で、将来のお金の価値を現在価値へ戻す10%のことを割引率といいます。
つまり、先にお金をもらったら価値が高く、将来もらうお金は価値が低いということです。
先ほどの利回り計算では、いつお金をもらい、いつお金を失うのかという時間概念が一切考慮されていません。
このお金の時間価値を考慮した投資全体の利回りを評価する方法がIRR(内部収益率)です。
IRR(内部収益率)とは
IRR(内部収益率、Internal Rate of Return)という概念はわかりにくですが、簡単に言うと
IRRとは
「不動産に投資した自己資金を、銀行の定期預金に預けた場合の利回り」
のことです。
IRRの計算式はややこしいのでここでは割愛しますが、エクセルでも「IRR」という関数で簡単に計算できます。
IRRの計算例(融資の有無による変化)
現金で購入した場合
例えば、簡単な例として、物件価格が100万円(諸経費込)で、毎年の純利益(収入-支出)が10万円の物件を考えます。
この場合の実質利回りは
10万円÷100万円×100=10%
となります。
例えばIRRで、1年目は物件購入のみで空室とし、2年目~4年目は満室で運営し、5年目の終わりに90万円で売却した場合を考えます。
こちらのキャッシュフローとIRRの計算結果は以下の通りです。
1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | IRR | |
キャッシュフロー | △100 | +10 | +10 | +10 | +100 | 7.8% |
実利回り10%の物件を買ったつもりでも、実際の運用成績は7.8%という結果です。
融資で購入した場合
次にさきほどと同じ条件のキャッシュフローで、融資を使った影響を加えてみます。
購入時に80万円の融資を受け、2年目~5年目まで毎年5万円ずつ返済し、5年目の終わりで一括返済したという条件で考えます。
なお、簡単化のために融資による金利影響は無視します。
こちらのキャッシュフローとIRRの計算結果は以下の通りです。
1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | IRR | |
①キャッシュフロー | △100 | +10 | +10 | +10 | +100 | 7.8% |
②融資影響 | +80 | △5 | △5 | △5 | △65 | |
合計(①+②) | △20 | +5 | +5 | +5 | +35 | 32.8% |
融資の返済によって毎年の手残りは少なくなっていますが、IRRは32.8%と大幅に高くなっています。
同じ実質利回りの物件を購入した場合でも、融資の有無によって投資期間全体での利回りは大きく変わってしまいます。
IRRの計算例(期間全体で見た収支が同じ場合の差)
次に、期間全体で収支が同じ場合で、お金を手にするタイミングが違う物件で比較してみます。
1つ目は先ほどと同じく、物件価格が100万円(諸経費込)で、毎年の純利益(収入-支出)が10万円、1年目は物件購入のみで空室とし、2年目~4年目は満室で運営し、5年目の終わりに90万円で売却した場合を考えます。
1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | IRR | |
キャッシュフロー | △100 | +10 | +10 | +10 | +100 | 7.8% |
上記ケースでは、全体の収支としては+30万円です。
次に、全体の収支が同じく+30万円ですが、毎年の収入が多く売却価格が大幅に下落した場合を考えます。
毎年のキャッシュフローは+20万円で、売却価格が50万円だと仮定します。
こちらのケースのキャッシュフローとIRRを、先ほどのケースと比較します。
1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | IRR | |
キャッシュフロー① | △100 | +10 | +10 | +10 | +100 | 7.8% |
キャッシュフロー② | △100 | +20 | +20 | +20 | +70 | 9.1% |
2つ目のケースでは、購入価格よりも50万円も低い価格で売却していますが、1つ目のケースよりも高いIRRという結果になっています。
投資期間全体での収支額が同じであったとしても、いつ現金を手にするのかで投資全体の評価としては変わってしまいます。
結局、IRR(内部収益率)はどう考えたら良いのか
これまでの結果を見ると、「とにかくIRRが高い物件購入すれば正解だ!」と思いますが、現実的には購入前にいくら精緻に予想したとしてもその結果がどうなるのかはわかりません。
いくらで売却できるのか、実際に今後どんなトラブルが起こるのか、予測するのは難しいです。
もしIRRの評価結果に縛られて動けないようであれば、そんなものは使わない方がましです。
そうはいっても、このIRRからわかることは考えておく必要があります。
1.いくらで売却できそうか
- いくら高利回りであっても売却時に大きく値下がりするようであれば、投資全体として利回りが大きく低下する
- 逆に利回りが低くても高く売却できるようであれば、投資全体では利回りが大きい
2.満室で運営できそうか
- どんなに高利回り物件であっても、空室だらけでは投資全体の利回りは低下する
3.予期せぬ高額の出費はないのか
- マンションであればエレベータ関係や大規模修繕等を考慮して利回りはどうなるのか
- 火災保険をしっかりかけておけば若干利回りは下がるが、投資全体では安定する
4.融資は使うのか
- 融資の割合が大きければ大きいほど、自己資金に対する投資全体の利回りは大きく向上する
- 表面利回りが低くて全くダメだと思っていた物件でも、融資をうまく使えれば素晴らしい投資物件にもなりうる
まとめ
この記事では、利回りと、それ補うためのIRRについてご紹介しました。
【要点】
- 利回りの種類としては、代表的なものに、「表面利回り」、「実質利回り」、「自己資金利回り」というものがある
- 利回りは簡単に投資の評価をできるが、売却時の損益、毎年の収支、お金の時間価値を考慮していない
- お金は早く手にすれば再投資できるので、将来もらうお金よりも価値が高くなる
- IRR(内部収益率)を使うと、お金の時間価値まで考慮した投資全体の評価が簡単にできる
- ただし、IRRは投資結果として出てくるものなので、どうしたらそれを高めることができるのかという観点で利用し、縛られすぎないこと
もっとIRRについて詳しく知りたい方へ
不動産投資におけるIRRを詳しく知りたい場合には、玉川陽介さんの著書をおススメします。
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