不動産は一物多価の典型例です。
不動産投資をするにはその価格を計算する必要がありますが、実際どうやって計算するのでしょうか。
銀行融資の際に特に使われる積算評価法と収益還元法を学んでみましょう。
積算評価法
積算評価法は、土地と建物を別々に評価し、その評価額を合算する評価方法。
積算評価法の計算式
積算評価法の計算式は以下の通りです。
【計算式】
積算評価=土地の価格+建物の価格
土地の価格=土地面積×①土地の単価
建物の価格=建物の延床面積×②再調達価格×(残耐用年数÷③耐用年数)
積算評価法の計算式に出てくる数値は、以下のようなものを使います。
使用するデータ | |
①土地の単価 | 相続税路線価 |
構造 | ③耐用年数 (法定耐用年数) | ②再調達価格 |
---|---|---|
鉄筋コンクリート(RC) | 47年 | 20万円/㎡ |
重量鉄骨 | 34年 | 18万円/㎡ |
木造 | 22年 | 15万円/㎡ |
軽量鉄骨 | 19年 | 13万円/㎡ |
上記が一般的な考え方ですが、実際には金融機関によって土地の単価、再調達価格、耐用年数は変わってきます。
土地の単価であれば、相続税路線価以外に、公示価格や近隣売買事例に基づく価格なども使われます。
耐用年数も法定耐用年数ではなく、ストレスをかけてもう少し短い耐用年数を使っているところもあります。
また、土地の価格については形状による補正や、それぞれの地域や立地等によって補正されて算定されます。
投資家が使うべき評価式と具体的な算定方法
各銀行の評価方法は公開されてはおりませんが、担当者に聞くと耐用年数は何を使うのか、土地の単価は何をベースに考えるのか程度は教えてくれます。
そうはいっても銀行ごとに評価方法も異なっており、それを精緻に再現することもあまり意味がないので、不動産投資としては相続税路線価をベースに考えておけば基本的には間違いないです。
相続税路線価は、公示価格(≒実際の取引価格に近い)の80%で評価しているので、低めに評価額が算出されます。
ただし、実勢価格と相続税評価額が逆転している地域もあるので、その場合には注意が必要です(銀行によっては価格が逆転していても相続税評価額をベースにして評価しているところもあります)。
相続税路線価は以下のサイトから調べることができます。
全国地価マップ(https://www.chikamap.jp/)
このサイトの相続税路線価等というページから、知りたい場所の住所を検索すると、道路沿いに数字とアルファベットが書かれた地図が表示されます。
例えば、「123E」と記載されていたとき、数字の「123」が相続税路線価を表しており、この場合は123千円/㎡となります。
後ろのアルファベット「E」は借地権割合を表していますが、ここでは意味がないので無視してください。
先ほど見つけた相続税路線価に、知りたい土地の面積をかけると理想的な形状(正方形や長方形)の土地の評価額で算定できます。
実際の土地はきれいな形の土地ばかりではないので、それぞれの形によって補正計算を行います。
土地の補正計算はそれだけで一冊の本になってしまうので、本を買って手元においておくと便利です。
路線価による土地評価の実務
色んな土地の形状について計算方法の実例を記載してくれているので、自分が買う土地についてもしっかり計算できます。
不動産投資の実務としては、価格交渉の際にはできる限りに厳密に評価しますが、いろんな物件を見る時はよっぽど特殊な形状でなければ路線価をそのまま使い、敷地延長などの特殊な形状のときには簡単に0.7掛けするなどして評価します。
収益還元法
収益性に着目した評価方法。
対象不動産から将来的に生み出される価値を現在価値に割り引いて不動産価格を決定。
収益還元法の計算式
収益還元法の計算方法は以下の通りです。
【計算式】
【計算式】
収益還元評価=物件の純収益÷還元利回り
物件の純収益=①年間家賃収入-②諸経費・公租公課等
還元利回り=③地域ごと等に定められた利回り
収益還元法の計算式に出てくる数値は、以下のようなものを使います。
①年間家賃収入 | 満室時の80~100% |
---|---|
②諸経費・公租公課等 | 年間家賃収入の20~30% |
③地域ごと等に定められた利回り | 統計データ等により参照 例)東京中心部5.5% 地方政令都市7.5% 地方その他都市9.5% |
注意点として、還元利回りは築年数や建物の利用状況などでも補正がなされ、銀行によっても扱いが異なります。
還元利回りの算出方法には、地域ごとに代表的な利回りを使う以外に、販売中の物件の利回りを基にする方法や、不動産会社などが公表しているデータを参考にする方法もあります。
投資家が使うべき評価式と具体的な算定方法
収益還元法については、計算式を見て分かる通り、還元利回りに何を使うのかで大きく数値が変わってしまいます。
同じエリアだったとしても、実際には利回りはかなりの幅を持っています。
そのため、自分で銀行と同じ収益還元法による評価ができるわけがなく、やったところでほとんど意味がありません。
投資家の実務的な使い方としては、物件を購入する際に指値の根拠に使うのみです。
収益還元法を指値の根拠にする方法
販売されている物件の利回りが低すぎる場合に、収益還元法の評価額を根拠に指値をします。
例えば、平均10%の利回りで物件が販売されているエリアで、利回り5%で出ている物件があったときに、「収益還元法で計算すると半額が妥当で、そうしないと融資が通らず誰も買えません」といって指値をします。
もしもともと積算評価で妥当な金額の物件だったときには、積算評価を下回る価格で買えるので、銀行からの評価がかなり高くなります。
積算評価法と収益還元法のどちらを重視するべきか
重視すべきは積算評価法!
基本は積算評価法を重視した方が良いです。
もともと収益還元法は、積算評価法だけでは実態と乖離してしまう物件を、適切に評価できるように採用したという経緯があります。
銀行や融資商品によってもどちらの評価方法を用いるのかは異なってきます。
- 積算評価法のみで判断する
- 積算評価法と収益還元法の低い方を採用する
- 積算評価法がメインで収益還元法は参考として使う等々
色んな銀行の評価方法をヒアリングすると、積算評価法を使わないという銀行に私は出会ったことがなく、収益還元法を補助的に利用している銀行が多い印象です。
収益還元法が導入された趣旨から考えると、それが正しい使い方かなと思います。
そのため、積算評価法で評価が出ない物件を、収益還元法で評価が出るという理由だけで無理やり購入すると、自分が購入できても売却する際には融資がつかないので誰も買えなくなる可能性もあります。
また、銀行によっては購入する物件に対しては収益還元法も併用して評価しても、所有物件に対しては積算評価法のみで評価するところもあります。
継続して物件を購入することを考えると、収益還元法はあくまでも補助的なものと考え、基本は積算評価法と考えておくほうが良いです。
収益還元法については、その評価方法を用いるよりも、銀行の融資期間との兼ね合いで、収益性(キャッシュフロー)は問題ないのか考える方がより重要です。
収益還元法は意味がないのか?
私の考えですが、収益還元法を用いれば還元利回りから物件の評価額は算定されますが、それは1つの評価額というだけで、指値の根拠以外でほとんど役に立ちません。
なぜかというと、収益還元法の評価は、銀行の融資期間とは全く関係がなく、利回りだけを見て判断しているだけにすぎないからです。。
銀行から借入をするときには収益性の評価を行いますが、そのときには物件の収益と、年間の返済額から問題ないかを評価します。
つまり、収益還元法で高評価だったとしても、融資期間が短いのであれば収益性としては不可と判断されてしまいます。
そのため、銀行融資を考えると、収益還元法の評価がいくら出るのかよりも、何年の融資期間を組めて、その際の収益性は問題がないのかの方が重要になります。
銀行融資については以下のコラムを参考にしてください。
まとめ
本記事では、積算評価と収益還元法について紹介しました。要点をまとめると、
- 銀行は、積算評価法と収益還元法も用いて物件評価を行う
- 投資家としては、積算評価法を基本に考え、収益還元法は補助的に考えるべき
- 収益還元法よりも融資期間と、その際の収益性の方が重要
- ただし、物件購入の場面などで収益還元法が使える場面もあるので、評価方法は理解しておくべき
次の記事では、不動産会社への電話のかけ方のポイントをご紹介します。