こんんちは。大家のぶたどんです
賃貸契約のキャンセルについて解説します。
賃貸住宅へ入居するためには、入居申込、保証会社の審査、重要事項の説明、賃貸借契約の締結など様々なことを行います。
やっと理想のお部屋に出会えたと思っても、家庭や仕事の都合などで、急遽契約をキャンセルしたいという場合があります。
では、いつまでであればキャンセルが可能なのでしょうか。また、契約後にキャンセルはできるものでしょうか。
入居申込した後でもっと条件の良いお部屋が出てきちゃって・・。お金払っちゃったけど、キャンセルしたら返してもらえるの?
そこで本記事では、いつまでなら賃貸借契約のキャンセルが可能なのか、違約金などのキャンセル料の扱いも含めて解説します。
いつまでならキャンセルはできる?
契約成立前であれば、キャンセルは可能!
賃貸借契約の成立前であれば、キャンセルはできます。
賃貸借契約による拘束力が生じ、契約で定めた事項を守る義務が生じるのは、契約が有効に成立した後です。
ただし、契約が成立した後は、借主には家賃の支払義務等が発生し、解約もしくは解除しない限り契約関係からの離脱は原則として認められません。
いつ契約成立となるのか?
契約成立前ならキャンセル可能っていうけど、いつ契約が成立するの?
賃貸借契約は、契約書面を作成しなくても、口頭で合意するだけで成立する契約(これを「諾成契約」といいます)であり、双方が合意に至ったときに契約が成立します。
しかし、不動産会社による仲介で契約する際には、不動産賃貸借の重要性に鑑みて、合意した内容を明らかにしておくために詳細な契約書面が作成されるのが通常で、それぞれのケースごとに具体的な事情を基に個別判断されます。
答えになってないよ!
詳細な判断はそれぞれの事情で異なりますが、一般的な見解を以下で解説します。
①大家と直接契約した場合
大家と直接契約する場合、口約束だけで契約は成立します。
つまり、大家さんとの話の中で、
賃料は5万円で敷金・礼金は不要でOK。契約期間は2年で更新もOK。解約予告は1カ月前で、部屋は原状回復して返してね。これで良ければ貸しますよ!いつから住む?
OKです。来週の土曜日から住みます!
極端な話、この口約束した時点で契約は成立しており、それ以降のキャンセルはできず、お互いに合意した賃貸借契約の定めに従って解約手続きとなります。
第二章 契約
引用:民法(明治二十九年法律第八十九号)
第七節 賃貸借
(賃貸借)
第六百一条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
第二章 契約
引用:民法(明治二十九年法律第八十九号)
第一節 総則
(契約の成立と方式)
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
大家さんと直接契約すると、次に説明する「宅建業法」という法律は適用されず、「民法」の定めで契約成立になります。
②不動産会社の仲介で契約した場合
不動産会社(宅建業者)が仲介に入る賃貸借契約では、重要事項の説明が義務付けられており、一般的には書面を用いた重要事項の説明がなければ契約成立とはなりません。
(重要事項の説明等)
引用:宅地建物取引業法(昭和二十七年法律第百七十六号)
第三十五条 宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(以下「宅地建物取引業者の相手方等」という。)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。
一 当該宅地又は建物の上に存する登記された権利の種類及び内容並びに登記名義人又は登記簿の表題部に記録された所有者の氏名(法人にあつては、その名称)
(後略)
(書面の交付)
引用:宅地建物取引業法(昭和二十七年法律第百七十六号)
第三十七条
2 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の貸借に関し、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方及び代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
一 前項第一号、第二号、第四号、第七号、第八号及び第十号に掲げる事項
(後略)
つまり、一般論としては、不動産会社にて契約をする場合は、重要事項の説明を受けて賃貸借契約書に署名捺印するまでであれば、契約は成立していないのでキャンセルできます。
宅建業法(宅地建物取引業法)にて書面の交付が定められている以上、口約束だけで契約成立とはいえません。
不動産会社(宅建業者)は「宅建業法」を守られないとだめなので、「民法」以外にも「宅建業者」のルールを守らないとダメです
大家さんと直接契約した場合と、不動産会社で契約した場合だと全然違うんだね
入居までの流れ
不動産会社の仲介なら重要事項説明まではキャンセルできるってわかったけど、重要事項説明はいつあるの?
それではここで内見から入居までの一般的な流れを説明します。
流れ① 内見~入居申込
ポータルサイトや不動産会社の店舗にて気になる物件が見つかったら、実際に現地でお部屋の内見を行います。
お部屋の状態や初期費用や家賃などの条件が自分の希望と合致し、その部屋に入居したいと思ったら、『入居申込』を行います。
各不動産会社によって異なりますが、『入居申込書』といった書類へ記入したり、『保証会社の審査申込書』と兼用されているものもあります。
この時点では、あくまでも入居者(賃借人)として入居したいという意思表示をしただけで、賃貸借契約は成立していません。
流れ② 審査
最近では、保証会社の利用を入居条件としている場合が多く、保証会社にて審査が行われます。
保証会社の審査と同時もしくは保証会社の審査後、その物件の大家(賃貸人)にも審査を依頼します。
保証会社及び大家(賃貸人)の審査の結果、問題ないと判断されたら契約手続きへと進みます。
この時点で申込金や預り金といった名目で一時金の支払いを要求されることもあります。
申込金ってどういう場合に必要になるの?
完全に不動産会社や大家さん次第ですが、内見から契約までの日にちが空く場合にもらいます(大家さんの手元には1円も来ません!)
流れ③ 重要事項説明、賃貸借契約の締結
重要事項説明書と賃貸借契約書の準備ができたら、不動産会社の店舗にて契約を行います。
契約の順番は担当者によっても異なりますが、まずは重要事項説明書を説明し、その後、賃貸借契約書の説明を行います。
説明の完了後、それぞれの書類に署名押印し、賃貸借契約が成立します。
初期費用の支払いは契約の前後で行われます。
流れ④ 鍵の引渡し、入居
入居日当日もしくは入居日が近づいたら鍵の引渡しが行われます。
契約日と入居日が近い場合には契約と同時に鍵の引渡しが行われることもあります。
キャンセルに関する注意点
契約成立以降は解約扱い
不動産会社の仲介で契約をする場合は「重要事項の説明を受けて賃貸借契約書に署名捺印するまで」、大家と直接契約する場合は「口約束をするまで」はキャンセル可能ですが、それ以降はキャンセルできず、賃貸借契約の解約・解除扱いとなります。
つまり、契約成立した時点から既に支払った初期費用の一部は返ってこず、また解約予告による賃料(例えば、解約は1カ月前までに予告等)や違約金があればその請求を受けます。
返金されないお金
「仲介手数料」と「礼金」については絶対に返ってきません。
契約が成立した時点でその対価として支払っているもので、よっぽどのことがなければ返金に応じることはありません。
また、一般的に賃貸借契約の解約をするときには、1カ月前に希望して1カ月月後に退去するか、1カ月分の家賃を払ってすぐに退去するかとなっています(1カ月前の解約予告として定められています)。
そのため、解約を申し込んだ日から1カ月分の賃料は返金されません。
保証会社の保証料については、その契約内容にもよりますが、賃貸借契約の成立前であれば返金されても、契約成立以降は返金されない場合が多いです。
追加請求を受けるお金
賃貸借契約に、「〇年以内の解約の場合は賃料1カ月分を違約金として支払う」などの短期解約違約金が定められていれば、追加請求を受けます。
返金されるお金
敷金については、原状回復費の負担やその他の請求がなければ全額返金されます(追加請求するお金と相殺されることもあります)。
また、解約予告日以降の賃料については返金対象となります。
火災保険については、その契約内容にもよりますが、経過していない日割り(もしくは月割り)分が返金されます。
あれ?ほとんど返ってこない・・・。大家さんが儲けてるの?
いえ、契約成立した時点で不動産会社に対して広告費(賃料の1~3カ月分)を支払っているので、よくてトントンです。広告費が高いと解約予告や違約金をもらっても赤字です・・・
そうなると不動産会社の儲け?
いえ、不動産会社も内見から契約までの経費(人件費などの運営費)がかかっているので、通常の利益しかありません(報酬がないと大赤字)。だから、契約成立以降のキャンセルは関係者全員が不幸になります
契約成立前でも安易なキャンセルは絶対NG
契約成立以降はダメだから、それまでにキャンセルすればいいんだね!
確かに賃貸借契約が成立するまでであれば、入居者にとってはキャンセル料がかからず、一見デメリットはありません。
しかし、契約直前でキャンセルされると、仲介してくれた不動産会社はタダ働きとなり、大家は空室期間の長期化でどちらも損失を受けています。
どうしようもない理由でキャンセルせざるを得ないこともありますが、安易にキャンセルすると関係者に大変な迷惑(損失)を与え、二度と相手にしてもらえないこともあります。
十分に検討してから入居申込をしましょう!
軽い気持ちでキープとかキャンセルは絶対にダメです!
賃貸借契約キャンセルに関するQA
ここからは、契約のキャンセルに関する様々な質問に回答します。
Q1 キャンセルはどうやって伝えればいいの?
A1.
直接訪問、電話、メール、SMS、LINE等、伝え方は何でも良いので、まずは一刻も早くキャンセルする意思を伝えましょう。
ただし、メールやSMS等だけで伝えた場合、相手がその内容に気付かない可能性もあるので、メール送信後に店舗に電話をかけるなど、必ず担当者へ伝わるようにしましょう。
また、今後トラブルとなった場合に備えて、できる限り証拠として残るように、メールや電話を併用しましょう。
Q2 口約束だけでも契約は成立するの?
A2.
民法の定めでは、賃貸借契約は諾成契約なので、書面を作成せずとも口約束だけで契約は成立します。
ただし、不動産会社(宅建業者)の仲介の際には、宅建業法の制約を受けるため、重要事項の説明などが必要となります。
Q3 初期費用の支払い後はキャンセルできないの?
A3.
初期費用の支払い後でも、契約が成立していなければキャンセルは可能です。
契約成立のタイミングは、一般的に重要事項の説明を受けて賃貸借契約書に署名捺印したときです(大家との直接契約では、口約束した時点です)。
ただし、それぞれのケースごとに具体的な事情を基に個別判断されるため、弁護士等の専門家へ相談してみると良いです。
Q4 保証会社の審査中はキャンセルできないの?
A4.
不動産会社(宅建業者)の仲介であれば、保証会社の審査中や審査後であっても、契約が成立していなければキャンセルは可能です。
Q5 特別な事情がある場合でも契約成立後はキャンセルできないの?
Q5.
原則、契約成立後はキャンセルできず、契約の解約・解除となります。
ただし、当初の説明と異なる場合(入居条件の不履行等)の場合には、契約の解除や損害賠償請求もできる場合があります(詳細はQ6を参照)。
また、事情によっては仲介してくれた不動産会社や大家さんへ相談することで、キャンセル扱いにしてくれる場合もあるので、一度相談してみてください。
Q6 説明と現状が異なっていた場合はキャンセルできる?
A6.
債務不履行に基づく契約の解除や引っ越し代等の損害賠償請求もできる可能性があります。
不動産会社(宅建業者)は、契約の当事者である入居者に対して、重要事項の説明が義務づけられており、また、判断に重要な影響を及ぼす内容について故意に事実を告げなかったり、不実のことを告げる行為は禁じられています。もし上記に違反した場合は、行政処分(業務停止処分や免許取消処分等)の対象となる可能性や、内容によっては損害賠償責任や刑事罰の対象となります。
もし入居前に約束していた修繕がされていない場合等は、大家(貸主)の債務不履行として、契約の解除等ができます。
Q7 クーリングオフは適用されないの?
A7.
不動産の賃貸借契約は、クーリングオフの適用外のため、クーリングオフ制度による契約解除はできません。
クーリング・オフは、いったん契約の申し込みや契約の締結をした場合でも、契約を再考できるように、一定の期間であれば無条件で契約の申し込みを撤回したり、契約を解除したりできる制度です。
しかし、クーリングオフ制度が適用される取引は限定されており、例えば以下のような取引であれば適用されますが、不動産の賃貸借契約は適応外となっています。
- 訪問販売(8日以内であれば解除)
- 電話勧誘(8日以内であれば解除)
- 特定継続サービス(8日以内であれば解除)
- 一定の場合の不動産売買(8日以内であれば解除)
Q8 契約成立前なのにお金を返してもらえない
A8.
契約の成立前に渡したお金は「預り金」という扱いであり、もしキャンセルしたのに「預り金」が返金されない場合は宅建業法違反となるため、全額返金してもらえます。
(業務に関する禁止事項)
引用:宅地建物取引業法(昭和二十七年法律第百七十六号)
第四十七条の二
3 宅地建物取引業者等は、前二項に定めるもののほか、宅地建物取引業に係る契約の締結に関する行為又は申込みの撤回若しくは解除の妨げに関する行為であつて、第三十五条第一項第十四号イに規定する宅地建物取引業者の相手方等の利益の保護に欠けるものとして国土交通省令・内閣府令で定めるもの及びその他の宅地建物取引業者の相手方等の利益の保護に欠けるものとして国土交通省令で定めるものをしてはならない。
(法第四十七条の二第三項の国土交通省令・内閣府令及び同項の国土交通省令で定める行為)
引用:宅地建物取引業法(昭和二十七年法律第百七十六号)
第十六条の十一 法第四十七条の二第三項の国土交通省令・内閣府令及び同項の国土交通省令で定める行為は、次に掲げるものとする。
二 宅地建物取引業者の相手方等が契約の申込みの撤回を行うに際し、既に受領した預り金を返還することを拒むこと。
Q9 契約成立前であれば必ず全額お金は返ってくる?
いつの時点で契約が成立したのかが論点となるため、個別の事情で異なる場合もあります。
また、契約が成立しなかった場合であっても、契約準備段階で、相手方に対して契約が締結されるであろうという期待を与えている場合には、信義則上、期待を裏切らないように行為する義務を負うものとされています。
その義務に反して契約を不成立とした場合には、信頼を生じさせたことにより賠償責任を受ける可能性もあります。
例えば、契約の成立前であったとしても、入居者の希望で室内のリフォーム(キッチン交換等)を行った場合には、その受けた被害について損害賠償を請求されることもあります。
Q10 重要事項の説明は受けたが、契約書にサインしていない場合は?
通常、賃貸借契約の成立では契約書を交付されますが、実際に契約交渉過程のいつの時点で双方の合意が成立したかについては、個別事情で判断されます。
そのため、一度弁護士等の専門家へ相談してみることをおすすめします。
Q11 困ったときはどこへ相談したらよい?
不動産会社(宅地業者)は、一般的に以下の4つの団体のいずれかに属しています。
- 全国宅地建物取引業協会連合会 http://www.zentaku.or.jp/
- 全日本不動産協会 http://www.zennichi.or.jp/
- 不動産流通経営協会 https://www.frk.or.jp/
- 全国住宅産業協会 http://www.zenjukyo.jp/
万が一、トラブルが発生し、自分の力だけでは解決できないと思ったら、加盟団体へ相談するとスムーズへ解決できるかもしれません。
どこへ加盟しているかはその不動産会社次第なので、それぞれ電話で相談してみると良いです。
また、専門家である弁護士へ相談したいと思ったら、まずは無料相談を利用してみると良いです。
まとめ
本記事では、賃貸借契約のキャンセルについて解説しました。
要点は以下のとおりです。